物忘れは認知症の
初期症状の
可能性があります
「この頃、いろんなことを忘れてしまう」というのは、自分が歳をとったかもしれないと思う多くの人が発する言葉です。人の名前が出てこない、漢字を忘れて書けなくなってしまったなどは、少しずつ誰にでも起こってきます。しかし、自分で思い出したり、人から指摘されて気がついたりする程度であれば、特に心配することもない普通の現象と言えるでしょう。
一方で、認知症やその他の脳疾患の症状として起きている物忘れもありますが、自分に起こっている物忘れが加齢によるものなのか、認知症によるものなのかをご自身で判断することはとても難しいと思います。
そんな時頼りになるのが、脳神経外科の専門医です。ご家族や仲間などに少し物忘れがひどいのではないかと指摘されたり、ご自身で心配になったりした方は、ぜひ一度当院までご相談ください。
加齢による「物忘れ」
記憶力は脳の体力のようなものと考えることもできます。程度の差こそあれ、誰しも歳をとることで筋力の低下があるように、記憶力も加齢によって低下してきます。何かを忘れても、人から指摘されてすぐに思い出したり、自分ですぐに思い出したりするようならこのタイプの物忘れである可能性が高く、あまり心配することはありません。
加齢による物忘れの特徴
加齢による物忘れの特徴としては、ご自身の体験の一部を忘れていて、ご自身で物忘れをしていることを自覚できている、物事の適切であるか不適切であるかの判断はできていて、日常生活に支障を来していないといったものがあります。
認知症による物忘れ
認知症による物忘れでは、物忘れに加えて物事に対する理解や判断能力、言語、学習や計算の能力といった文字通りの認知機能に障害が起こってしまい、日常生活に支障を来すようになります。そういったことについて、他の人から指摘を受けても理解できなかったり、その事自体を忘れてしまったりしています。逆にそのような物忘れが増えた場合は認知症が疑われることになります。
認知症による物忘れの特徴
認知症による物忘れの特徴としては、体験したことをすべて忘れてしまい、自分が物忘れしているということも自覚できていない。物事が適切であるか、不適切であるかの区別もできなくなり、日常生活に支障を来すようになったといった事の他、今まで興味のあったこと、趣味であったことなどに興味を持てなくなるといったような事もあります。
4大認知症の特徴
アルツハイマー型認知症
脳の中心にあって記憶を司っている海馬から、空間を認識することを司る頭頂葉までを中心に脳の広い範囲の細胞が萎縮してしまうことによって発症するのがアルツハイマー型認知症で、この型が認知症の半数以上を占めているとされています。
障害される場所から、記憶障害、日付や時間、場所などを認識する能力である見当識、判断力などが障害されます。
萎縮した脳細胞を復活させる療法はまだありませんが、進行を遅らせる薬が開発されています。
脳血管性認知症
脳梗塞や脳出血といった脳血管障害によって、脳細胞が傷つけられることによって起こります。傷つけられた場所によって症状は異なりますが、記憶や感情を司る場所が障害されると認知症を起こします。この型の認知症は、特に過去に何度も脳梗塞を起こした方に多く発症する例があります。
脳梗塞の再発防止のために、脳血管障害のリスクを高める高血圧、糖尿病、脂質異常症といった疾患の治療も行う必要があります。
レビー小体型認知症
脳の神経細胞にレビー小体と呼ばれるたんぱく質の塊ができることによって起こるのがレビー小体型認知症です。頭がはっきりしている時とぼーっとしている時が変動し、幻視や悪夢による睡眠障害、手の震えなどのパーキンソン症状が特徴的な症状です。認知症の進行を食いとめる薬の内服とともに、パーキンソン症状を抑える治療も行います。
前頭側頭型認知症
物事を判断する能力をつかさどる前頭葉や、言語や形などの認識をつかさどる側頭葉が障害されることによって起こるのが前頭側頭型認知症です。社会通念が欠如し、反社会的行動をとることもある脱抑制、注意力が欠如する、自発性が低下する、行動がパターン化するといった症状が特徴的です。また障害された場所によって、軽躁状態や言語障害といった症状があらわれることもあります。症状が多様なため、対症療法によって治療します。
認知症の
中核症状とBPSD
(行動・心理症状)
中核症状とは、ある疾患によって起こる症状のうち、その疾患が直接な原因となっている中心的な症状のことです。一方BPSDとは認知症の行動・心理症状で、英語のBehavioral and Psychological Symptoms of Dementiaの各頭文字から来ています。
認知症の中核症状として以下のようなものが挙げられます。
- 会話の内容が理解できない
- つじつまの合わない発言の増加
- 日常生活に支障を来すほどの物忘れ
- 今までできていた日常的な行動や趣味などができなくなる
- 時間や場所といった見当識の喪失
など
こうした中核症状から引き起こされる二次的な症状のうち行動や心理状態にかかわる症状がBPSDで、身体の不調、不快感といった身体症状や、ストレスや不安といった心理症状から起こるものとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 怒りっぽくなる
- 意欲が無くなる
- 元気がなくなる
- 妄想が起こる
- 興奮する、暴言を吐く
- 徘徊する
BPSDが問題になるのは、徘徊によって迷子になってしまう、周囲に暴言や暴行することがある、妄想によって盗られてもいない財布などの身の回りの品を盗られたと言うなどの行動が、介護者、周囲の人にとって大変な重荷になってしまうことです。そのためにも本人に対する治療はもとより、周囲も認知症という病気をしっかりと理解して、そうした事態への対応法を知っておくことが大切になってきます。
今のところ、障害されてしまった脳細胞を復活させる方法はありませんので、認知症を根本的に治すことはできませんが、進行を遅らせる治療薬は開発されています。まずは初期症状のうちに適切な診断を受けて治療を始めることが大切です。
治る可能性がある認知症
加齢や認知症以外にも、一時的な症状として物忘れを起こすことがある疾患があります。
のような疾患の代表的なものとしては、以下に示すようなものがあります。こうした疾患による一時的な物忘れは、疾患を治療することによって元に戻る可能性があります。しかし、放置すればいずれ重篤な状態に陥りかねませんので、サインを見落とさず早めに受診するようにしてください。
慢性硬膜下血腫
代表的症状
- 頭痛
- しびれ
- 麻痺
- 半身が不随意
- 意欲が低下した
- 言葉が出にくい
- 症状が起こる前に頭部を強打したことがある
など
脳腫瘍
正常圧水頭症
代表的症状
- 呼びかけても無反応
- 動きがゆっくり
- 歩くとふらつく
- 小刻みに歩く
- すり足になるといった歩行障害
- 尿失禁
など
お気軽にご相談ください
ご家族の方に物忘れの症状があり、認知症などの心配がある方はお気軽にご相談ください。当院は地域の「かかりつけ医」として、皆様に寄り添った医療を提供します。特に当院では、脳神経外科の専門医が専門的な見地から、認知症が無いか、他の疾患に由来するの可能性が無いかなどについてしっかりと見極め、適切な治療を行ってまいります。地域のどなたもが気軽に相談に立ち寄れる医院を目指していますので、お気軽にご利用ください。
MCIについて
認知症の中でも、半数以上を占めるとされるアルツハイマー型認知症は、脳の広範囲の細胞が萎縮してしまうことによって引き起こされます。このアルツハイマー型認知症には、認知症になる手前の段階として、正常な状態と認知症の状態の中間ぐらいの状態の時期があることが分かっています。これを軽度認知障害と言い、英語のMild Cognitive Impairmentの頭文字をとってMCIと略称されています。
これは記憶力や注意力などの認知機能にある程度異常は見られても、日常生活に支障を来すほどではない状態で、65歳以上の高齢者の15~25%の人がこの状態になると言われています。MCIの状態で過ごすと約5年でその半数近くの方が認知症に進行するといわれています。できるだけ早くこの状態を発見して適切な対策を行うことで、認知症の発症を食いとめることが大切です。
MCIスクリーニング検査
認知症のひとつであるアルツハイマー病は、アミロイドβと呼ばれる物質が徐々に脳内に蓄積されることで発症します。アミロイドβは、本来排出したり毒性を弱めたりする物質ですが、この機能が上手く働かないことでアルツハイマー病が進行していきます。当院で行っている迅速検査(MCIスクリーニングプラス検査)では、アミロイドβに関わる9つのたんぱく質を調べることで、軽度認知障害(MCI)の兆候をとらえています。40歳以上の方、物忘れが気になる方は、認知症を防ぐためにもぜひ受けてみましょう。