片頭痛を起こす
たんぱく質「CGRP」
について
片頭痛の原因は未だ解明されていないのですが、近年の研究でかなり発症の仕組みが解明されてきています。中でも有力なのが、三叉神経から脳内の表面に向かって放出される特定のたんぱく質が関係しているとする「三叉神経血管説」です。
このたんぱく質は、カルシトニン遺伝子関連ペプチドと言って、通常は英語のCalcitonin Gene-Related Peptideの頭文字を取ってCGRPと呼ばれています。
なんらかの刺激によって、三叉神経から脳の表面にある硬膜に向かってCGRPが放出され、CGRPを受け取った硬膜が炎症を起こします。そのため、脳が痛みを感じたり悪心を感じて嘔吐したり、また眠気を感じたりすると説明されています。
片頭痛が起きていない時にCGRPを注射で投与すると、片頭痛が起こったという実験によって、このことの再現性が証明されています。
つまり流れとしては、①三叉神経からCGRPが放出、②CGRPが硬膜で炎症を起こす、③硬膜が炎症によって痛み、悪心、眠気などを引き起こすという三段階を経て片頭痛が起こるのです。
抗CGRP抗体薬に
期待されること
セロトニンは、やる気などに関係するドパミン、交感神経に作用して体を動かしやすくするノルアドレナリンといった物質をコントロールする神経伝達物質です。片頭痛はこのセロトニンが減少してしまい、三叉神経が刺激されてCGRPという血管を拡張させる性質を持つたんぱく質が放出されることで、脳の硬膜部分で炎症が起こり発症するというところまで解明されてきました。
その仕組みを利用して開発されたものが、抗CGRP抗体薬です。この薬を皮下注射することで、CGRPの放出を抑え片頭痛の発生回数を大幅に抑える効果が認められ、2021年からは健康保険適用の治療が行えるようになりました。当院でもこの治療を行っておりますので、お気軽にご相談ください。
CGRPに対応した
注射薬について
神経からCGRPを放出させない:各種トリプタン
片頭痛を起こす元となるのは三叉神経から放出されるCGRPという物質です。片頭痛は何らかの理由で血管が収縮し、その後急激に拡張することで三叉神経を刺激し、それによってCGRPが放出されるという仕組みです。この元を絶って、CGRPを放出させないという考え方に立って開発されたのがトリプタン系の薬剤です。ただし、この薬は片頭痛が起きてからできるだけ早いタイミング(20〜30分以内がベスト)で服用しないと効果が少ないところが難点で、そのタイミングを捉える難しさがあります。
CGRPそのものをやっつける:エムガルティ、アジョビ
CGRPが放出されても、それを無力化することで炎症が起こらないようするという仕組みで働くものが、抗CGRP抗体薬というタイプの薬です。この薬を皮下注射することによって、1~3か月の間効果が持続し、その間はCGRPが放出されても無力化し、炎症を起こらないようにします。
CGRPを受け取らせない:アイモビーグ
CGRPそのものを無効化するのではなく、放出されたCGRPを硬膜が受け取らなければ炎症が起こらないという考え方で作られたのがこのタイプの薬です。体内で何かの物質を受け取る窓口のことを「受容体」と言いますので、このタイプの薬は抗CGRP受容体抗体薬と言います。この薬は皮下注射することによって1か月効果が持続し、炎症が起こらないようにします。
片頭痛の予防注射を
使用できる方
片頭痛の予防注射には、最新の医薬品の使用に関して、その作用メカニズムを明らかにするとともに、使用方法を定めた、厚生労働省の最適使用ガイドラインがあります。当院でもそれを遵守して治療を進めています。ガイドラインによれば、以下の条件にすべて合致する方は、保険適用で片頭痛の予防注射療法を受けることが可能です。
- 前兆の有無に関わらず、片頭痛の発作が月に複数回以上発生していることを医師が確認しているか、慢性片頭痛であると診断されていること
- 緊張性の頭痛ではなく片頭痛が、過去3か月の間、1か月に4日以上発症している
- これまでの片頭痛予防薬の効果が十分に得られていないか、副作用などの事情で継続して服用できない
- 食生活、睡眠、生活のリズムなどの生活指導や、ストレス状況からの解放のための薬物によらない療法を実施し、また片頭痛の急性期の治療を十分に実施しているのに、しっかりとその効果が得られない
- 過去1年以内に脳の検査を受けて画像上異常な所見が見られない(当院ではMRI・MRA検査をご希望の方には提携する検査施設のある医療機関を紹介しています)
年齢制限など
- 妊娠されている方や授乳されている方でも慎重な検討を行った上であれば投与可能
- 18歳未満は使用できません
よくある質問
CGRPは身体にとって有害ですか?
CGRP自体は、自然に人体に由来する成分で、脳以外の部分からも分泌されることが分かっています。そのため、たまたまその自然な成分が、想定外の働きをして片頭痛を起こしてしまっているという考え方もできます。CGRP自体は代謝や傷の治癒などに関わりのある働きをしており、脳以外にも心臓や胃腸でも働いていることが分かっています。
それでは、これを薬によってブロックして大丈夫かという疑問もありますが、脳以外の部位でCGRPをブロックしようとしても、他の物質がそれをカバーすることが分かっています。
現場で実際に使用してみて、この薬は他のさまざまな薬と比べても非常に副作用が少ない部類に入ります。
だんだん効果が落ちたりすることはないですか?
よく、なんらかの身体内の物質をブロックする薬を使用し続けた場合、その効果をブロックして抗体を再活性化したり、薬自体を抗原としてブロックしたりすることがあります。しかし、抗CGRP抗体療法や、抗CGRP受容体抗体療法については、理由は分かりませんが、こうした薬そのものを抗原としてしまうような抗体が作られにくいことが知られています。そのため、ほとんどのケースでだんだんと効果が落ちたりすることはありません。
やめたら元の悪い状態になってしまいますか?
よくホルモン製剤などを服用し続けると、そのホルモンを自前で生産する能力が低くなってしまうといった副作用がある薬物もあります。また、なんらかの物質を受け入れる受容体をブロックすると、それに対抗して受容体の絶対数が増えてしまうのではないかという疑問も分かります。しかし、この抗CGRP抗体や抗CGRP受容体抗体に関しては、理由は明らかでは無いのですが、そういった馴致性の弊害のような報告はまだありませんので、ご安心ください。
副作用が心配です
非常に稀な例として、アナフィラキシーからアナフィラキシーショックを起こす例があります。注射をして1時間以内に蕁麻疹や気分不快、息苦しさなどを感じた場合、その可能性がありますので、救急対応をしてください。
当日の行動については、食事、入浴などの制限はありませんが、注射をした部分を激しく擦ったりすることは避けてください。
ワクチンの接種なども本来はほとんど関係がないのですが、万が一副反応が起こった場合、どちらのものによるのかが分からなくなって、対応が遅れることもあります。できる限り同日接種は避けてください。
誰にでも効果はありますか?
誰にでもというまではいきませんが、効果を得ることのできる方の割合はかなり高いと言えます。ただし、3か月に1度は見なおして、思った効果が得られていない場合は治療を中止します。しかし、効果があるなしに関わらず、あくまで片頭痛です。使用を中止する、しないは患者さんご自身で決めることができます。また投与を中止しても再開すればすぐに期待する効果を得ることができます。
この療法は最長投薬期間などがあるのですか?
期待する効果が得られる場合は、特に投薬期間に制限はありません。
投薬間隔はどれくらいですか?
一般的には4週間から1か月に1度注射による投薬を行います。健康保険的には、月に複数回の投与は対象となりませんので、必ず投薬月の翌月以降に投薬するようにしてください。通常、1週間程度投薬期間がずれても特に問題はありません。ただしエムガルディの場合、3週間以上間が空いたら初回の投与量である2本からやり直しになります。
また、アジョビは12週間に1度3回分をまとめて投与することも可能です。
詳細は医師にご相談ください。
他の薬も使用してみたいのですが…
CGRP抗体はモノクローナル抗体製剤という種類の薬です。この種類の薬は長く使うと中和抗体ができて効き目が落ちるという傾向が指摘されていますが、前述の通り、CGRP関連の治験ではほとんど中和抗体の発生は報告されておらず、この点においては他の薬を試してみることに化学的根拠はあまりありません。
ただし、認可されてからの期間がまだ短いため、今後の事例収集を待つ部分も多くあります。それまではあまり薬の切り替えはお勧めできません。
片頭痛注射について
診察時にかかる費用(窓口負担3割の場合)
エムガルティ | アジョビ | アイモビーグ |
---|---|---|
初回(2本) 約28,000円 2回目以降 約14,000円 |
約13,000円 | 約13,000円 |
留意事項
- いずれの注射も4週に1度のペースで注射をします。まずは3~6か月の定期通院を予定立てた上で、治療を始めましょう。
- お支払いは現金、またはクレジットカード(VISA/Mastercardで5,000円以上)がご利用いただけます。
- 注射薬のお取り寄せに1~2日かかります。ご予約の上、ご来院ください。
- お取り寄せの薬剤の為、キャンセルは承っておりません。お日にちの変更は可能です。